ニュースの概要
米国のHike Medicalは、ウェブ上で行う30秒ほどの足部スキャンから、AIがカスタムインソールを設計する仕組みを提供している。撮影は手元の端末で済み、専用の計測機器を置いた店舗に足を運ぶ必要がない。同社はこの設計機能に加えて、DME(耐久性医療機器)の保険請求、承認手続き、来院前の事務処理を自動化するAIエージェントの基盤も持つ。さらに、装具を自ら作る3Dプリント工場も運営している。紹介元は同社の求人ページで、モバイルスキャンと3Dプリンターの組み合わせにより、納期を数週間単位から短くできると説明している。つまり同社は、計測、設計、製造、事務を一つの流れとしてまとめて抱える事業者である。
引用元: Hike Medical、AI足部スキャンと3Dプリント装具を組み合わせた事業を拡大(Simplify)
分析・見解
30秒の撮影が消すのは、来院と足型採りの往復
従来のカスタムインソールは手順が多い。来院し、石膏や発泡素材で足型を採り、工房へ送り、製作を待ち、できあがったら再び受け取りに行く。数週間かかるのは、作る時間より待つ時間が長いからだ。ウェブ上のスキャンは、最初の来院と型採りを手元の端末に移す。足の形が数字になれば、型の郵送も要らない。
ただし、形だけで良い装具は決まらない。体重のかけ方や歩き方、痛む場所が処方を左右する。スキャンで取れるのは主に形状であり、荷重の情報ではない。AIが問診や歩行の情報をどこまで補えるかが、品質の分かれ目になる。
3Dプリントの価値は、在庫を持たずに一点ずつ作れること
既製品はサイズごとに在庫を抱える。従来のカスタム品は型や職人の手作業が要り、単価が上がる。3Dプリンターは設計データさえあれば、型なしで一個ずつ作れる。歯科矯正のマウスピースや補聴器の外殻が、スキャンと3Dプリントで個別注文を量産できる形に移ったのと同じ流れである。
一方で、スマホで撮った足からインソールを作る試みは過去にもあり、採算に苦しんだ例が報じられている。個別製品は返品や作り直しの負担が重く、売れても利益が残りにくい。ここが最大の落とし穴である。
本当の差別化は、製造より保険請求の自動化にある
Hikeが目を引くのは、設計や製造だけでなく、DME業務のAI化まで束ねている点だ。DMEは米国で、医師の処方、保険の事前承認、書類の提出といった手続きが重い。書類に不備があれば却下され、装具を作っても代金が入らない。
製造と事務を同じ会社が持てば、スキャン、処方、請求のデータが一本の線でつながる。却下された理由を、次の設計や利用者への案内に戻せる。装具を作る会社というより、保険に「通る形」で作る会社に近い。この点は、単なる3Dプリント事業者との大きな違いになる。
出典が求人ページである点は、割り引いて読む必要がある
今回の情報源は採用ページで、書かれている内容は同社の自己紹介にあたる。納期の短縮幅、返品率、保険の承認率といった検証できる値は示されていない。事業の方向は明確だが、実力は別に確かめるべきである。一方、採用を強めていること自体は、事業が拡大期に入った兆しと見てよい。
ビジネスへの影響
導入を検討する前に、三つの数字を相手に聞く
足の悩みを扱う整形外科、靴店、スポーツ用品店などが同種のサービスと組むなら、まず確認したいのは三つである。一つ目は作り直しや返品の割合。二つ目はスキャンを最後まで終えられる利用者の割合。三つ目は保険請求の承認率だ。この三つを開示できない相手は、実績が固まっていない可能性が高い。デモの見栄えより、運用の数字を優先して比べたい。社内の担当者が自分の足で撮影し、手元に届くまでの日数を測っておくと、説明資料にない現実が見える。
自前で作るか、提携で使うかは固定費で決める
自社工場を持つ形は、納期と品質を握れる反面、プリンターや材料、人員の固定費が重い。提携なら初期の負担は小さいが、納期や仕様は相手任せになる。年間の注文数が少ないうちは提携で試し、数が読めてから内製を考えるのが堅実である。素材の耐久性や修理の可否も、後から効く費用なので契約前に聞いておきたい。
日本で応用するときに外せない二つの確認
日本では、治療用の装具に医師や義肢装具士の関与、療養費の手続きが絡む。健康目的の一般向けインソールと、医療用の装具では扱いが違う。どちらを狙うのかを先に決めたい。また、足の画像や歩き方は健康に近い情報であり、保存期間や利用目的を利用者に示す必要がある。まずは一般向けの小さな試験から始め、返品率と満足度を三か月ほど測るとよい。
